エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 最上階に着いたエレベーターは軽やかな音を鳴らして止まった。その音に反応してゆっくりと唇が離れていく。まだ、唇に蒼司の熱が残っていたがエレベーターを降りた蒼司はそっと菜那を降ろし手を取り歩き出す。指先から感じる優しさが熱く、身体の全てが熱くて自分が雪だったら一瞬で溶けてしまいそうだ。


「菜那さん、どうぞお入りください」


 カードキーで開けられた重厚感のある扉。エスコートされながら部屋に入るとまるで異国に飛んできたような光景に息を呑んだ。


「……凄い。ここってもしかして」


「そう、スイートルーム。菜那さんを招待するって約束しましたからね」


 蒼司のパソコンを覗いたときと同じ光景に菜那は目を輝かせた。広々としたテラスから眺められる綺麗なバラ園。重厚感あふれる家具や調度品は本場のヨーロッパを連想させてくれる。


 夕方の柔らかなオレンジの光が差し込むテラスに蒼司と並んで立った。ずっと繋がっていた手に思わず力が入る。


「ふふっ、嬉しいです。本当に嬉しい」


「喜んでもらえてよかった。俺も菜那さんと一緒に来られて嬉しいです」

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