エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 耳元で「菜那さん」と囁かれ、導かれるように手を引かれた。クイーンベッド一つでも大きいのに、広い部屋に二つも並んでいる寝室。その一つのベッドに蒼司は座り、足の間に菜那を座らせた。背中から感じる蒼司の熱に心が落ち着きを取り戻してくる。


 蒼司の両手に包み込まれ、手のひらが菜那のお腹に触れた。


「何か、ありましたか?」


「あ……えっと……」


 あの時は感情が高ぶりすぎていたから口から滑るように言葉が出ていたけれど、いざ冷静になると愛羅との出来事を伝えることを悩んでしまう。蒼司の幼馴染のことを告げ口するような感じも嫌だし、なにより愛羅の気持ちを勝手に伝えるわけにはいかない。


 口籠る菜那の様子を見た蒼司が菜那の髪を撫でながら話し始めた。


「俺は菜那さんが俺を好きになってくれたことがなによりも嬉しいです。自分の愛してる人との子供まで授かれて、好きっていう気持ちがなによりも大切だと思うんです。だって好きっていう気持ちがすべての原動力になると思いませんか? 好きだから頑張ろう。この人の事が好きだから守りたい、優しくしたいって、たくさんの感情が生まれてくるんです。菜那さんはどう思いますか?」

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