エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「他の男に話しかけられても無視してくださいね。菜那さんはとても魅力的な人だから心配だ」


「そんなっ……」


 耳元を擽る甘いだけじゃない、少し苦みのある声に身体の芯から熱くなる。頬にちゅっと熱く柔らかな蒼司の唇が触れた。


「じゃあ、行ってきます」


 恥ずかしさのあまり声が出ず、菜那はこくんと小さく頷いた。


「かっこいい……」


 ポロリと思わず声に出てしまう。大勢の人の前に立つ蒼司の姿はとても凛々しく、この会場に飾られている大きなシャンデリアよりももっと輝いて見えた。堂々とマイクに向かってこのホテルの素晴らしい特徴や、設計への想いを述べている。菜那は一字一句聞き逃さないよう、目で、耳で、蒼司の言葉を感じていた。


(聞こえる……? パパは本当に凄い建築家なんですよ。産まれたら一緒に泊まりに来ようね)


 菜那はお腹を撫でながらも蒼司から目を離さなかった。


 蒼司のスピーチが終わり会場が大きな拍手で包まれる。自分の事じゃないのにとても誇らしい気持ちになった。離れている蒼司を目で追うが沢山に人に囲まれて姿が見ずらい。

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