エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
(ふふっ、気長に待ってよう)


 喉が渇いた飲み物をもらいに行こうと菜那は立ち上がると、タイミングよくスタッフの方が目の前を通った。


「あっ、すいません。ノンアルコールのものを頂けませんか?」


 声を掛けるとすぐに立ち止まったスタッフは驚いた顔をして菜那を見た。


「菜那、だよな……?」


 え……?


 見覚えのある顔に菜那の身体は金縛りにあったようにビシッと硬直した。


「……樹生」


 賑やかな会場にすぐにかき消されてしまうような声を出した菜那の手には不穏な汗をかき始める。嫌な思い出がフラッシュバックし、頭の中を駆け走った。前髪をきっちりと纏めていて、服もホテルのウエイターだったのですぐには気が付かなかったがかつて付き合っていた恋人の樹生だ。

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