エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

「あ？」


「だから、離しってって言ってるんです！」


　グイっと力を込めて振りほどこうとするが男の人の力に敵うはずがなかった。


（どうしたらいいんだろう……）


　ここで大騒ぎにしたら蒼司の迷惑に掛かってしまう。掴まれている腕も樹生の力が強く、ギリギリと痛みが走り菜那は目を伏せて頬を引きつらせた。


「お前……何している。その手を今すぐ離せ」


　あっ……。


　声に振り返ると今まで見たことないくらいの怖い顔をした蒼司が樹生の肩を力ずよく握っている。


「ってぇな。え……さっきまで挨拶してた……」


　痛みで顔を歪ませた樹生は蒼司を見て目を見開いている。


「あぁ、宇賀谷だ。そして今お前が手を掴んでいる女性の夫だ。お前、妻に何をした」


「は？　妻って、菜那が宇賀谷さんの？」


　離された手を急いで引っ込めると蒼司が菜那の前に立つ。蒼司は鋭い瞳で樹生を睨みつけた。初めて見る蒼司の怖い顔に驚くどころか嬉しさを感じてしまう。菜那は蒼司のジャケットの裾を掴んだ。