エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「ははっ、こんなハイスペックの男がばばあみたいな菜那の夫って……笑わせないでくださいよ」


 人を小ばかにするような笑い方に見覚えがある。あの日、樹生が浮気した日もそうやって菜那のことを馬鹿にしていた。思わずジャケットを掴む手に力が入る。すると蒼司がくすくすと笑い始めた。


「あぁ……お前か……」


 ギリギリ聞こえるくらいの声で蒼司は呟いた。


(……蒼司さん?)


 菜那が蒼司の顔を見上げると引き寄せられ、しっかりと抱きしめられる。頭の上で蒼司の声が響いた。


「貴方は菜那さんの良さを何もわかっていませんね。本当に手放してくれてよかった。でも……妻を馬鹿にしたこと、後悔することになりますよ」


「は……? 何言って――」


「菜那さん、行きましょう。ウエイターさんはお仕事で忙しいでしょうから」


 チッと舌打ちが聞こえたがそれは蒼司のものではない。


 菜那は一度も樹生を見ることなく、蒼司に腰を抱かれながらその場を後にした。

< 175 / 220 >

この作品をシェア

pagetop