エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 だからと言って蒼司におんぶに抱っこじゃいけないことは重々承知だ。自分は失業とともに、結婚と妊娠が重なり外に働きに出ることはなくなってしまったが、蒼司は毎日仕事を頑張っている。頑張っている蒼司を支えたいと思うのは自然な気持ちで、今の自分に出来ることと言ったら家を綺麗に保ち、美味しい料理を食べて元気いっぱいになってもらうことぐらい。


(パパの仕事はね、本当にカッコいいんだよ)


 そっとお腹に触れ、お腹の中の赤ちゃんに心の中で話かけた。するとグニュンっとお腹が動き、思わず笑みがこぼれる。こうしてタイミングよく胎動を感じるから本当に自分とお腹の子は繋がっているんだな、と不思議な気持ちだ。


 ささっと洗面所で身だしなみを整えた菜那はエプロンをつけ、キッチンに立った。冷蔵庫の中からジャガイモと玉ねぎを取り出し、ポタージュの準備に取り掛かる。少し多めに作って自分のお昼の分も確保し、モンティクリストに取り掛かった。名前は随分お洒落で難しそうな料理に聞こえるが簡単に言えばフレンチトーストの間にハムとチーズを挟み、カリカリに焼いたものだ。蒼司の起きてくる七時を目安に焼き上げる前の工程まで仕上げた。

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