エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「……蒼司さんはそんな風に酷いことを思うような人ではありません」


 自分の出した声は人生で一番太く、低かったかもしれない。


 愛羅はヒクリと口元を引き攣らせ菜那を睨みつける。


「あんた、なに蒼司くんのこと私はよく知ってますみたいに言ってんの? なに? そうやって私にマウントとってるわけ?」


「マウントって……私はただ本当の事を言ったまでで……」


 ギロリと鋭い瞳にひるみそうになった時、ぐにゃんとお腹が動いた。まるでママ、負けるな、と応援されたかのよう。


 わ……。


(ママのこと、応援してくれるの?)


 お腹に触れるとポコポコと中から蹴ってくる。


(ふふ、まるで会話してるみたい)


 愛羅に罵倒されているはずなのに、この子のおかげで全く気にならなかった。昔の、蒼司と出会う前の菜那だったらすぐに傷ついて、目の前の出来事から逃げ出していたかもしれない。


「なに笑ってんのよ。私の事馬鹿にしてるのかしら?」


「いえ、そんな事は有りません。ちょっと待っててくださいますか?」


 菜那はキッチンに立ちお茶を淹れ始めた。最近常備してあるルイボスティーをカップに注いで愛羅に差し出した。

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