エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
(……あれ? 痛く、ない?)


 バチンと痛みが身体に走ると思ったのに、何も感じない。恐る恐る瞳を開けながら顔を上げると目を吊り上げて、怖い顔をしている蒼司が愛羅の腕を取っていた。


「蒼司さん……?」


「愛羅! お前、菜那さんに自分が何しようとしたか分かってるのか?」


 掴んだ愛羅の手を振り落とし、蒼司は菜那を守るように肩を抱き寄せた。愛羅は唇を噛み、悔しそうに瞳に涙を浮かべている。


「菜那さん、大丈夫でしたか? たまたま帰ってきたからよかったものの……」


「私は大丈夫です……それよりも町田さんの方が、きっと今凄く後悔していると思います。あまり怒らないであげてください」


「菜那さん……。愛羅、どういうことなんだ?」


 蒼司は愛羅を見るが、口を結んだ愛羅はなかなか言葉を発しない。もしかしたら声に出すことによって耐えている涙がこぼれてしまうのかも。菜那も元カレの浮気現場に直面した時、悔しくて、言葉を発してしまうと涙が溢れそうになった経験がある。


「蒼司さん、ちょっといいですか」


 菜那は立ち上がり、涙を堪えている愛羅の前に立った。

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