エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「ふふっ、もう寝ちゃいました。早いですね」
「きっと検診で疲れたんですよ。でも、特に問題なくてよかった。それに菜那も、産後一か月経ったからって無茶しないこと。俺がいるんだから頼ってくださいね」


「わかってますよ。……ふふっ」


 菜那は両手で口元を押さえながら蒼司を見る。


「なに? どうしました?」


 バックミラーに不思議がる蒼司の顔が映っている。


「いえ、まだ蒼司さんに菜那って呼び捨てにされるの慣れなくて。なんかくすぐったい気持ちになっちゃいます」


「実は俺もです……敬語でも話しちゃうし、癖ですね」


「でも和香那を産む時、私のこと菜那って呼んでくれてましたもんね。その時は痛すぎて考えてられなかったけど後々思い出して、すごく嬉しかったです」


 信号が赤に変わり、車が止まった。


「菜那」


 何度呼ばれても、とくんと心が喜んで反応する。振り向くと蒼司の左手が菜那の頬を包み込んだ。

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