エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 母親の病院にお見舞いに来るのは一か月ぶりだ。産後はしっかりと休みなさいと母親にも口うるさく言われていたのでようやくお見舞いに来ることが出来た。


「お母さん、開けるよ」


 病室の扉を開けると鼻から管を通した母親がベッドに横になっていた。最近は呼吸が浅くなってきたらしく、常に酸素を管から送っているらしい。電話で聞いていたので実際の姿を目にするのは今日が初めてだった。


「あ……菜那、蒼司さん、来てくれたんだね」


 久しぶりに聞く母親の声はとても弱弱しく、明らかに弱っていることが分かってしまうほど。


「お母さん、和香那を連れてきたよ。今は寝ちゃってるんだけど」


「いいよ、いいよ。顔さえ見れれば満足だから。寝てるところを起こさないようにしないとね」


 菜那が病室にある椅子をベッドの近くに置き、その上にそっとクーファンを置いた。


「お義母さん、和香那は菜那さんに似てると思いませんか? この鼻とか口とか。目を開けたらもっと菜那さんに似てますよ」 


 母親は少し苦しそうにしながら身体を起こし、カゴの中を覗き込んだ。

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