エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「あぁ、本当だ。赤ちゃんの頃の菜那にそっくりね。凄く可愛い。ずっと見てても飽きないわね」


 三人でクーファンの中にいる和香那を覗き込んでいると視線を感じ取ったのか、「んんっ……う゛ぅ゛~」と泣き始めた。


「あらま、起こしちゃったかしら」


 ぐずる和香那を菜那が抱き上げると母親の匂いを感知するのか、温もりを感知するのか、ふにゃっと嬉しそうに笑った。


「ふふっ、もう泣き止んだ。お母さん、抱っこしてあげて」


 菜那がベッドに浅く腰かける。


「……いいの?」


「当たり前じゃない。この子のおばあちゃんなんだから。はい」


 菜那はそっと母親の腕の中に和香那を降ろした。


「ちっちゃい。まだまだ軽いわね……本当に可愛いわ……少しでも長生き出来ててよかったわ……」


 小さく震えている声。母親の瞳からは一粒の涙が綺麗に流れた。ぬぐう素振りもなく、じぃっと嬉しそうに和香那を見つめる母親を見て、自分も涙が流れそうになった。ずっと菜那の結婚を望んでいた母親、きっと孫なんて見せることは出来ないと思っていたあの頃から百八十度と言えるほど変わった自分の人生。


 少しは親孝行できたのかな?


 ツンと痛む鼻の奥を我慢して、キュッと口元を引き締めた。

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