エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「あ、堀川さんいらっしゃってたんですね」


 名前を呼ばれた方を見ると普段からよくしてくれている看護師と出くわし、ぺこりと会釈する。


「ちょうどよかった。先生からお話があるので少しお時間いいですか?」


「あ……大丈夫です……」


 お話がある、そういわれるときは大抵悪い話だ。今までの経験上、そういうパターンが多い。


 菜那はゴクリと唾を飲み込み、看護師の後をついていく。カウンセリングルームに入り、しばらく座って待っていると担当医が看護師と一緒にやってきた。


「お待たせしました」


 四十代と思われる男性の担当医は明らかにいつもと雰囲気が違う。


 あぁ、これは覚悟しないといけない時が来たのかもしれない。思わず両手に力が入り、膝の上で拳を握った。


「堀川さん。お母様の容体は日々悪化し、残りの時間はもって一年あるかないかです」


 ……たった一年。


 やはり、予想は当たっていたらしい。覚悟はしていたつもりだったが、唯一外れたと思うのは残りの時間だ。余りにも短すぎる。


 担当医が色々話ていたが右から左に流れていった。

< 28 / 220 >

この作品をシェア

pagetop