エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 近藤の依頼内容はゴミの処分とキッチン周りの掃除。制限時間は三時間。正直言って三時間で終わる状況ではない。踏み場のない床からほんの少しの隙間から見える木目を見つけては足を降ろし、ゴミ袋を片手に菜那はリビングのゴミをどんどん袋の中に入れていく。沙幸はキッチン周りの掃除に取り掛かった。けれどキッチンにもゴミはたくさん溢れている。


 ペットボトルや空き缶、カップ麺のゴミはゴミ袋七袋分もあった。


「近藤様、大体のゴミは処分が終わりましたので、ここからはご一緒に捨てるか捨てないかの判断をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」


「あぁ」


 菜那が近藤に話しかけるとめんどくさそうに腹をガシガシとかじりながら近寄ってくる。ゴミが無くなり綺麗になったばかりのダイニングテーブル の椅子に近藤は座った。


「では、まずこちらのテーブルの上のものから確認をお願い致します」


 菜那は一つずつ近藤に確認を取りながらいるものといらないものを分けていった。明らかにゴミというもの以外はきちんと依頼主の確認を取ってから処分するようにしている。破れている雑誌の一冊でさえ菜那はしっかりと確認していた。その人にとっては破れていても、もしかしたら思い出の詰まっている大切な宝物かもしれないから。


「近藤様、新聞紙の方もまとめて捨てさせていただきますね」


「あぁ」


 どうでもいいとでも聞こえるような小さな声。それでも視線は痛いくらいに菜那に向いていて、全身を値踏みされているかのようにジロジロと見られている気がする。


(なんかちょっと、やりづらいな……)


 近藤の視線に違和感を感じながらも三時間という時間はあっという間に過ぎてしまい、ゴミの処分は済んだものの掃除まで至ることができずに残りはまた次回という話になった。
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