エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「そう、ですか……他の社員の方はもう知ってるんですか?」


「ええ、皆には昨日伝えたわ。皆納得してくれた。再就職先も同業職でよければ私がみつけてくるから」


「再就職、ですか」


 カジハンドでしか働いたことのない菜那にとって異職業に就職するのは困難だと思う。けれどなんとなく、倒産と聞いて、再就職と聞いて、違うところで働いてみるのもいいんじゃない? と頭をよぎった。


 あまり人と関わりたくないと思ってしまっているのが今の菜那の現状だ。泥棒扱いされ、彼氏に浮気され、親を失いそうになっている。この二日間で十分に人間不信になる要素はあった。


 でも自分には一体何ができるだろう? 家事意外に何ができますか? と聞かれたら答えられるものがない。


(あ……)


 自分は空っぽなんだ、と改めて実感した。恋人も失って、職も失って、そのうち親まで亡くして何もなくなってしまう。

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