エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
(525、押せた……)


 ホッと胸を撫で下ろすと、525号室からすぐに応答があった。


「はい、宇賀谷です」


 柔らかな優しい声。


(あれ? この声……)


 スピーカー越しに聞こえる声に聞き覚えがあった。ドクドクと心臓が過敏に動き出す。


「あっ、えっと、依頼を承りましたカジハンドの堀川です。宇賀谷様、本日は宜しくお願い致します」


 インターフォン越しに頭を下げるとくすくすと上品な笑い声がインターフォン越しに聞こえてきた。


「元気そうでよかったです。今開けるので入ってきてください」


 あ、やっぱり。


(昨日の人、かもしれない……)


 声を聞いただけだけれど、なんとなく、そんな気がする。ゆっくりとあいた自動ドアを通り、菜那は525号室へと向かった。


(あれ……?)


 少し先の玄関の前に人影が見えた。菜那の方を見るなり会釈をされ、もしかして? と思い、少し足を速めて影の元へ急いだ。
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