エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「す、すいません。なんか緊張してしまって、本当にお恥ずかしい姿ばかり見せちゃってますね」


 菜那は苦笑いしながら口元を手で隠す。


「そうですね。たまたまの偶然にいつも驚かされました」


「うっ……本当にこんな偶然ってあるんですね。これも何かのご縁だと思って精一杯務めさせて貰いますので本日は宜しくお願い致します」


 菜那は深々と頭を下げると「こちらこそ」と蒼司も高い身長を折り曲げる。菜那が顔を上げると蒼司は恥ずかしそうに髪を掻きながら笑った。


「その、部屋はかなり汚いんで……」


「ふふ、大丈夫ですよ。お任せください」


「じゃあ、どうぞお入りください」


 蒼司は手を差し出し、菜那を家へと招き入れた。汚いというからどれだけ汚いのだろうと思ったが、玄関に散乱している靴はなく、きちんと靴箱に並んでいた。


(なんだ、やっぱり汚くなんてないよ)


 艶やかな白いタイルがマンションだと暗くなりがちな玄関を明るくしてくれている。目の前には全面ガラスのリビングドアが見えた。


「これ、よかったら」


 蒼司から差し出されたスリッパはグレイのフワフワした素材。有難く拝借し、足を通すと靴下越しにでも分かるほどの素材の良さと履きこごちの良さに思わず「凄いっ」と声が出そうになった。


「ありがとうございます。ではお邪魔致します」


 歩く蒼司の後ろをついていき、リビングに入った。

< 36 / 220 >

この作品をシェア

pagetop