エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「わっ……」


 部屋のデザインやインテリアは凄く綺麗。だけれど、割と散らかっている。


 大きなガラス窓から見える景色は地上より空の方が近いんじゃないかと思うくらい空が近く感じる。残念なのは今日が曇りだということだ。晴れていたらきっと凄い絶景に違いない。けれどその手前に置いてあるソファーの上には脱ぎっぱなしの服が溜まっている。ガラスのローテーブルの上にも飲みかけのペットボトルが溜まっているがそれ以外のゴミはパッと見たところなさそうで菜那は少し安堵した。蒼司は罵声を浴びせるような人でないことはほんの少しの関りでも分かっている。けれど心のどこかでやはりお客様、に対して怯えてしまっている自分がいるのかもしれない。


「ははっ、汚くて驚きましたよね。仕事を理由にしたらいけないのは分かってるんですけど、忙しくて……まぁ、家事も苦手なんですけど」


 ソファーの上に脱ぎ捨てられていた服を搔き集めながら蒼司は恥ずかしそうに笑った。そっと蒼司が持っている服を取り、菜那は蒼司のことを見上げる。


「驚きなんてしません。お仕事が忙しいと家事まで手が回りませんよね」


 忙しそうな人を見ると母を思い出してしまう。ドクンと心臓が大きく動き、目頭が熱くなったのを感じたが平然を振る舞った。


 菜那の母も働いている時は常に忙しそうで、家に帰ってくるとスイッチが切れたようにぐったりとしていたからよく分かる。仕事と家事の両立とはかなり大変なことだと。だからこそ、自分たちのような家事代行業者を上手く使ってその人の負担を少しでも減らすお手伝いが出来ればなと思っている。


 菜那は服をいったん床の上に置き、スマートフォンを取り出した。

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