エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 キュッと唇を噛み、菜那は顔を上げた。


「では作業に取り掛からせていただきます」


「あ、待って下さい」


 動き出した菜那の腕を蒼司は掴んで止めた。


「な、なんでしょうか?」


「買い物の時はご一緒しても大丈夫でしょうか?」


「一緒にですか? それは……」


 滅多にないパターンの返答に少し間が開いてしまった。大抵のお客様は自宅で待っていることが多い。


「ダメ、かな?」


「……いえ、ダメではありません。では買い物の際にはご一緒に宜しくお願い致します」


「よかった。菜那さんの手料理、凄く楽しみです」


「っ……」


 ドキドキと小さく鳴っていたはずの心臓が大きく飛び跳ねた。


(な、名前で呼んだよね……?)


 スマートに名前で呼んできた蒼司は何事もなかったかのようにどこか別の部屋に消えて行った。


(あ……)


 意識しているのは多分自分だけだと思い知らされた。名前で呼ばれただけで反応してしまったことが恥ずかしくなってくる。

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