エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。聞き間違いではないだろうかと自分の耳を疑ってしまう。見ていたいと言った蒼司は菜那を見つめたまま、なんの言葉も発しない。その真っすぐな視線に耐えることが出来ず、菜那は勢いよく立ち上がった。


「で、では仕事に取り掛からせていただきますので。失礼いたしましたっ!」


 ペットボトルを胸に抱えて、その場を立ち去った。


(見ていたからって言ったよね……?)


 もしかして仕事に対して手を抜いてないかとか監視したいってことだろうか。確かに蒼司は仕事ができる人間のオーラが漂っている。蒼司は優しいだけじゃなく、厳しい人なのかもしれない。


 チラッと蒼司のことを見ると目が合った。思わず焦って目を逸らしてしまったけれど、蒼司は厳しい顔つきではない。むしろ優しく見守ってくれているような視線に感じた。


(頑張ろう……っ)


 上昇する体温を押さえたくて、菜那はペットボトルをぎゅっと抱きしめた。


(でも……これだけカッコいいんだからきっと彼女がいると思うけど、あんまり女の人の気配は不思議と感じないんだよなぁ)


 ラベルを剥がしながらソファーに座る蒼司を見る。少し口を曲げて、なんだか悩んでいるようだ。パソコンとにらめっこしている。その姿がなんだか少し可愛く見えてしまい思わず頬が緩んだ。

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