エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「え……?」


 ふわっと爽やかな柑橘系の匂いが鼻を抜け、蒼司は身長の低い菜那の顔を覗き込んだ。


「俺は家事のできる菜那さんの方が尊敬しますよ」


 蒼司に見つめられ、痛いくらいに心がドクンと反応した。次第に鼻の奥がツンと痛くなってくる。


「……私はそんな」


 何にもない空っぽの人間なんです。そう口にしたら耐えている涙がこぼれてしまいそうな気がして菜那は蒼司から顔をサッと背けた。

  
「ハンバーグ! チーズ入りがいいですか?」


 視線は蒼司からずらしたまま、菜那はポンポンと跳ねるような明るい声を出して話を逸らす。


「チーズ、いいですね。食べたいです」


「で、ではそう致しますね」


 蒼司の「楽しみです」という声と同時にエレベーターが三階で開いた。一人の男性が入ってきたと思えば、蒼司の腕が菜那の腰を抱き寄せている。


(え……な、なに?)


 人にぶつかりそうな程たくさん入ってきたわけではないのに、何故か蒼司の腕の中に捉えられている。もしかして自分が入ってくる人の邪魔になっていたとか? けど、ここで蒼司のことを突き放したら暴力を振るったとか言われてしまうのだろうか? あれ、そもそもこれはセクハラに入るんじゃ? なんて色んな考えがぐるぐると頭の中を駆け巡る。

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