エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
(あ、でも……)


 抱き寄せられて嫌じゃないからセクハラじゃないか。蒼司にはもう二度、抱きしめられているわけだし。


 菜那は顔を見上げて蒼司を見た。


「あ、あの……宇賀谷様?」


 なるべく人に聞こえないよう小さな声を出す。


「はい?」


 小さすぎて聞こえなかったのか、蒼司は顔を傾け菜那の顔に近づけた。柑橘系の香りが段々とムスクの香りに変わっていくのを感じる。


(顔っ、近いっ……)


 サラリと蒼司の髪が菜那の頬を擽った。バクバクと上がっていく心拍数。セクハラじゃなければ、この状況は一体何? 


「あっ、その――」

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