エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

5.蒼司side

 はぁ、と深いため息をつきながらソファーに腰を下ろした。右手でぐしゃぐしゃと髪を掻き、また、ため息が漏れる。


「やっちまったかな……」


 泣いている彼女が愛おしすぎて我慢していたはずなのに、キスしていた。


「いや、舌は入れてないしセーフ……? なわけないか」


 突然のキスに驚いたのか菜那は逃げるようにして部屋を出て行った。やっぱり嫌だったのかもしれない。少し自分の気持ちを押し付けすぎてしまったかもと反省した。


(でも……)


 やっぱり好きだ。


 たいして彼女のことを知りもしないくせに、好きだ、なんて言ったらきっと説得性に欠けるだろう。そう思い菜那との接点を作りたくて頼んだ家事代行。仕事として招いたはずなのに、彼女が自分の家の中にいると思うと浮足立ってしまって、気持ちを落ち着かせるのに必死だった。

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