エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
『わ……運転手さんは大丈夫だったのかな……?』


 彼女を見かけた時、菜那は雪で滑った事故現場を見て悲しそうな顔で運転手の心配をしていた。


 建築中の自分が設計したホテルの進歩状況を確認しに行った帰り道。歩いているとアイディアが浮かぶことが多い蒼司は現場からタクシーで帰り途中で降りて歩いていた。ただ前を歩いていた女性。人の心配をしているくせに自分はなんだか危なっかしい。何度か凍結した地面に滑っていたが、ついに盛大に足を滑らせて後ろに身体が倒れ掛かった。


 危ない、そう思ったよりも早く自分の身体が動き彼女を抱きとめていた。


『す、すいません! 助けてもらってしまって! 助かりましたっ』


 しばらく自分の腕の中で何が起きたのか分かっていないような顔でフリーズしていたのに、とたんに耳まで真っ赤にして慌てだしたのだ。


 可愛い。率直にそう思った。


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