エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 けれどその日はクライアントとの打ち合わせも入っており、長居はできずその場を離れてしまったがそのことを後からどれだけ後悔したことか。名前を聞いておけばよかった、連絡先を聞けばよかったと。


 一目惚れだった。


 大きな瞳、自分の腕の中にすっぽりと収まってしまう小さな身体。表情豊かでずっと見ていたいと思うほど。


 実は彼女を見かけるのはこの日が初めてではなかった。同じ道で何度か見かけていたのだ。盗み聞きではないけれど、菜那が電話をしながら歩いていて、声がとても優しくて穏やかだったことが印象的に残っている。


 歩いている時もそう、前から人が来て明らかに相手が避ける場合でも彼女は自ら避け、相手の邪魔にならないよう気を配っていた。いつもすぐに自分の目に映る存在だったのだ。


 初めて接触して、近くで顔を見て、声を聞いて、気になる存在から一瞬で恋に落ちた。

< 59 / 220 >

この作品をシェア

pagetop