エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
二章

1.貴方の役に立てるのなら

 蒼司の自宅を訪問してから一週間がたっていた。この一週間、仕事終わりに母親の病院に毎日通いながらも菜那の頭の中から蒼司の存在が消えない。


 菜那の中で異様な存在感を示す人。蒼司のおかげで正直元カレのことはすっかり思い出すことはないし、仕事で落ち込んでいたけれど、また頑張ろうという気持ちになれた。彼からもらう言葉によって、温もりによって、菜那の傷ついた心を確実に埋めていってくれるのだ。


 付き合ってもいない男の人と、出会ったばかりのお客様に、慰めてもらうような優しいキス。突然のキスだったはずなのに、それはとても甘くて柔らかかった。思い出しただけでもキュンと胸が痛むほどに。


「今日、伝えないとな」


 大きく息を吸って、深く吐いた。菜那の目の前には高級マンションのインターホン。今日も蒼司に指名され、カジハンドの仕事として訪れた。料理の味を気に入ってくれたらしく今日は作り置きの依頼が入っている。食材がたくさん入っている大きな買い物袋を持ち、腕には蒼司から借りていた傘とクリーニングに出したジャケットをぶら下げてきた。冬なのに今日は大荷物だったせいか身体がいい感じに温まり、外でも寒さを感じない。


(よし……)


 心臓をドキドキと鳴らしながらインターホンへ指を伸ばす。ピンポーンと軽やかな音が鳴るとすぐに蒼司の声が聞こえた。

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