エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい

「菜那さん」


　さらに引き寄せられ、誰にも聞かれないよう耳元に小さな声で話し出す。


「今、直線上にいるのが俺の父親です。菜那さんは私と結婚前提に一年付き合ってる恋人、という設定なことを忘れないようお願いします」


「は、はいっ。承知致しました」


「ありがとうございます。あー、そろそろこっちに来ますね」


　緊張で喉がカラカラだ。


　一歩、また一歩と蒼司の父親が近づいてくる。高級ホテルの社長なだけあってなのか、存在感が凄い。まるで高くて分厚い壁のよう。あっという間にその分厚い壁は菜那と蒼司の目の前に立ちはだかった。チャコールグレーの三揃いスーツを着こなし、短く整えた髪型が良く似合っている。親子なだけあって蒼司と目元が良く似ていて、思わず見惚れてしまうほど。蒼司が歳をとったらこんな感じになるのかな？　なんて想像までしそうになる。