エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
 唇を噛み、両手でくしゃっとシーツを掴む。蒼司はなかなか話ださない菜那を急かすことなく、ただただ優しいだ眼差しで見つめてくれていた。


 うまく言葉をまとめて話せないかもしれない。それでも今の自分の気持ちをちゃんと伝えなければ蒼司に失礼だ。菜那はごくりと生唾を飲み込み、覚悟を決めた。


「私には宇賀谷様の恋人になる自信が、ありません。うまく恋愛することも多分、できないです」


「……もしかして、うまく恋愛出来ないって言うのは菜那さんが泣いていたことに関係してる?」


 握りしめていた両手にふわりと温かさが被った。蒼司の大きな手が力が入りすぎていた手を優しくほどいていく。


 本当に、この人はどうしてこんなにも優しいのだろう。自分なんかよりもっと素敵な女性がいるに決まっている。ギュッと胸が締め付けられ、鼻の奥がツンと痛んだ。


「そう、です。私五年も付き合っていた彼氏に浮気されていたんです。彼と結婚すると私は思っていました。でも違ったんです……だから、恋愛に嫌気がさしたのかもしれません。自分が次に誰かと恋愛するってことも今は考えられなくて、他の事でも頭がいっぱいなんです。それに、また失ったらきっと立ち直れない」


「俺が菜那さんをいつか手放すとでも?」


「恋愛、いつか終わりが来ますよね……? 自分の気持ちがまだ分からないんです。宇賀谷様にこうして思っていただけて嬉しい気持ちもあるのに、どうしても怖いんです」


 菜那は視線を下げた。その先には蒼司に包み込まれている自分の手。この優しい手を一度手に入れてしまったら……無くなってしまうときが怖すぎる。

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