エリート建築士は傷心した彼女を愛し抜きたい
「ん、美味しい。レモンの味がさっぱりしていていいですね」


 また蒼司がつまみ食いをしたようだ。横目でチラッと覗くと口をもぐもぐさせている。


(また食べてる。でも、気に入ってもらえてよかった)


 ふふっと笑みがこぼれた。


「本当に美味しいです。どうしてこんなに俺好みの味なんでしょうか?」


「え? ちっ……」


 もわんとした熱気を頬に感じ、横を向くと思わずつるっと皿を落としそうになった。近い。蒼司が腰を曲げ、漆黒の艶やかな瞳で菜那の顔を覗き、捉えている。


「貴女の全てが俺好みなんです」


 ようやく落ち着いてきたのに。また、心臓が壊れそうになる。息をするのを忘れてしまいそうになるくらい、蒼司の瞳から目が逸らせない。


「あの、私……」


 どう返せばいいのだろうか。なんの言葉も出てこない。私もです、は違うし、私は好みではありませんも違う。早く答えを返したい。でなければ見つめられ続け、確実に酸素不足で倒れそうになるに違いない。けれど糸のように絡み合った視線に捕まり、答えを解くことができずにいる。


(どうしよう……何か言わないと……)

< 99 / 220 >

この作品をシェア

pagetop