偽恋人の恋愛事情




『鈴本くん……助けてください』


彼女も人間だ

俺に比べれば一回りも二回りも小さい女の子だ


あの人がこんな言葉を電話で呟いた時

サァッと血の気が引くのがわかった


雪音に何かあったのかもしれない

危ない目に遭ってるかもしれない

あの強い彼女が、藁にもすがる思いで俺に助けを求めた

それはあの声を聞けば一目瞭然だった


行かなきゃ

何も考えず、土砂降りの雨の中、一本だけ傘を持って走った


いつも別れるところと言えばいいものを

彼女は連絡先を交換したところと言った

そんな些細な一言に胸を締め付けられながら

無我夢中で

久しぶりに全力疾走した



特別な情なんてないのに、こんなに必死になるだろうか

そんな疑問は一度捨てて、早く彼女の姿を確認したかった


雨の中、いつもの別れ道で、呆然と立ち尽くすあの人を見た時

なぜか手を伸ばしたくなった

傘を持っていなかったら危なかった

そんな俺だけが知る事実は隠して、見たこともないくらい弱々しく見えたあの人をとにかく傘に入れた


雨とは違う、もっと綺麗な水が、目から溢れるのを見ると

なんとも言えない気持ちになった





なんとも、言えない、気持ちになった

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