偽恋人の恋愛事情


「私…家族と上手くやれてないんです」

家族?

「母は私が小学生の時に病気で他界しました。それからは父と兄と、3人で暮らしてきました」

亡くなった母親を思う顔だろうか

少し遠くを見て、目を細くする

無理やり口角を上げて言葉を紡ぐ


「父は…立派な人間です。兄もそうです。でも、私だけは違うみたいです」

…は?

「父親にはいつも兄のようになれと、城木家として恥のない人間になれと、そう言われ続けてきました。勉強を死に物狂いでやってるのも、成績にこだわるのも全部そのせいです」


確かに雪音は品行方正という言葉にやたらこだわる人間だとは思っていた

その背景には…父親がいたのか


「でもどれだけ努力しても、父親には認められないんです。ダメだダメだと、恥ずかしくないのかと、失望させるなと」



「まあそれは良いんです。慣れてますから。でもどうしても…あの人の目には私自身ではなく、私の実績しか映ってないように見えて…
わ、私も人間ですからね!あんまり私自身を無視され続けると…流石に…」

何度も口角を上げては、言葉を出す度に口角が下がる


「…今日、私と鈴本くんが手を繋いで帰っているところを兄に見られていたらしく、夕食の時それを指摘されたんです…」

え?

「まともな成績も取れないくせに、そんな戯けたことにうつつを抜かすな、と。失望させるなと」




「それはいつものことだったので…我慢しようと思ったんです。でも…」



彼女の拳に力が入った
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