偽恋人の恋愛事情
「あんなところにいたくないです」
…うん
「でも」
…?
赤い目を震わせて、また強く拳を握る
「…誰も、追いかけて来なかったなぁ」
「っ…」
「ずっと圧迫されていたら何かのきっかけでその蓋が外れた時、爆発します。今日の私はそれでした」
…
「…だから飛び出して来たの?」
「はい」
そう、か…
あまりの情報量に頭がパンクしかける
ただわかったことは
強いと思っていた彼女は、そうならざるを得ない環境で生活していたということ
その果てに辿り着いた今の彼女が、なぜこんなにも自分を責めるような表情をしているのか
なぜこんなにも美しく強く自分を持てるのか
俺には到底分かり得ないということ
そして
俺と同じ年月を生きている彼女には抱えきれないほどの苦しみを
今も必死でこぼさないようにその細い両手で無理に抱え続けているということだ
「…幻滅しましたか?」
…は?
思わぬ彼女の言葉に素で低い声を出してしまう
「学校ではあんな完璧な仮面をつけておきながら本当はこんなことでキレ散らかすような、器の小さい人間だったんです。私って」