偽恋人の恋愛事情
なんで幻滅するんだよ
俺はあんたの親父さんやお兄さんのことなんて知らない
俺にとって一番優先されるのはあんただ
「…あんたは俺がその話を聞いて幻滅するような人間だと思うわけ?」
必死で認められようと、必死で期待に応えようと血の滲む努力をしてきた彼女を俺は見てたつもりだ
もちろん俺には想像もつかないほどの屈辱や絶望を彼女は味わっているのだと思う
でも俺はあんたが助けを求めた人間だろ
話すのも辛いだろうにそれを話してくれた相手だろう
なんで味方だと思わないんだよ
なんで素直に甘えないんだよ
「なぁ、雪音」
俯いていた彼女の顎に手を添える
冷えた、小さいその顔を上げて強制的に視線を合わせる
「例え偽物でも俺たちは恋人でしょ」
特別な関係でしょ
他とは違うでしょ
「俺の前では生徒会長の仮面も品行方正な仮面も全部外してくれて構わない」
「鈴本く…」
違う
「楓」
「…か、楓くん」
うん
…
「…さっきの話本当?」
あんたが生きてきたっていう、その傷害の多すぎる道は
「はい」
…
なんなんだよ
知らないよ、雪音の父親や兄のことなんて
でも…あまりにあんまりだ
彼女の努力を知らないのか
あんなに強くて美しい彼女の何を見てるんだ
実の父親なんだろ?
なんで認めてやらないんだ
なんで受け止めてやれないんだ