偽恋人の恋愛事情
「か、楓くん、なんか怒ってる?」
彼女の不安げな問いかけにゆっくりその目を見る
「うん」
当たり前だろ
「…あんまり人様の家庭事情に口を出すのはよくないって思ってはいるんだけど」
俺は赤の他人だけど
高一の時も、この関係を提案した時も
彼女は助けてくれた
俺の逃げ道になってくれた
俺があんたのことで怒れる理由は数多とある
「…毎日顔見てるはずなのに、雪音がこんなんになるまで気づかなかったなんて…一体お父さんやお兄さんは雪音の何を見てるんだよ」
「成績ですよ」
…
間髪入れずにそう答えた
間髪入れずにそう答えることが、彼女にはできてしまった
「私が好きなものも、好きなことも、何にも知らないんです。興味があるのは成績だけです」
参ったというように笑っている
なんでそんな風に笑えるんだろうか
「…毎日、そんな家に帰ってたんだ」
「慣れましたけどね」
そんなこと…慣れるもんじゃない
「でも、楓くんをバカにしたことだけは許せなかったんです。それでタガが外れちゃって」
…
なんで自分のことじゃなくて俺のことで怒るの
それは、一体どんな顔なの
ねぇ雪音
どうしてそんなに強く生きられるの
俺はどうしてもあんたに近づけない
悔しいほど
雪音が遠い