偽恋人の恋愛事情
「…こちらこそ。俺のために怒ってくれてありがとう」
再び本音を押し殺し、柔らかく笑う彼女にそんな言葉をかければ
「いつかの逆バージョンですね」
なんて、少し懐かしい思い出を語る
「…」
「…」
じっとお互いの目を見合う
なんだか心臓が暴れている気がするけど
これは…
俺の音だろうか
目の前の、なんとも言えない柔らかい表情をしている彼女を見ると
心臓があり得ないくらい騒がしくなる
そんなことに気づいたのは今が初めてだ
でも、この感覚を知っていた
何度か…彼女の隣にいるようになって、味わったことのある感覚だった
「それは…」
彼女の少しだけ赤く染まった頬と、少しだけ下がった目尻と、少しだけ震えている唇
「どんな顔?」
……
「どんな顔でしょうね」