偽恋人の恋愛事情



どれくらい時間が経っただろう

あんまり経ってはいないのだろうけど

不安のせいでひどく長く感じた


リビングからの物音が聞こえなくなり

少ししてガチャンと乱暴な玄関の扉の音が聞こえた


しんとする家の中


……

……

……


コンコン


「っ!」


私の部屋の扉を叩く音が聞こえて体を硬くした

誰…?


「雪音、俺」




楓くんの声だ


ゆっくり扉に近づき、そっと鍵を開ける

でもすぐさま後ろに下がって距離を取った



カチャと静かに扉が開く


「…もう大丈夫だよ。佐賀は帰った」



扉を開いて、一歩だけ中に入った楓くん


私は胸の前で片手を握り、後ろに体重をかけて引いた体制でそれを見ていた

手が震えている


「…雪音?」



楓くんなのに、ビクッと肩が揺れる


さっきの恐怖が蘇る

何も言えず固まる私



「…雪音、怖かった?」

楓くんが少し手を広げて自分は安全だと合図する

私は小さく頷く



「俺は大丈夫、何もしない。信じて」



「俺たちは偽物の恋人だ」



「だから大丈夫だ」





「うん…」

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