偽恋人の恋愛事情
これは予想していた事態だ
彼女役をやる上でこういうイベントは避けて通れないだろうと思っていたが
まさかこうも早くやってきてしまうとは
ど、どうしよう…
〜
『でもまあ恋愛ごとに疎い…じゃなかったね。恋愛ごとに興味のない会長だからそんな無理して気合い入れなくてもいいよ。完璧にこなしてくれるなんて思ってないから』
〜
昨日のあの男の言葉が蘇る
…ぐぬぬ
そういえば好き勝手言いやがっていた
やってやろうじゃないの
完璧な彼女役
ギャフンと言わせてやろうじゃないの
あの機械男を
コホンと小さく咳払いをして姿勢を正す
そして坂下さんと松本さんを真正面から見つめる
「ええそうです。付き合っていますよ」
動揺など見せるものか!
肩にかかっていた髪をサッと払った
坂下さんと松本さんは目をぱちくりして私を見ている
…ど、どうだ
「え、あ…まじなの?」
「嘘でしょ…」
「嘘じゃありませんよ。先日お付き合いを始めました」
まあ、嘘だけど
「……あ、そう」
「…へぇ」
「なにか?」
「いや…別に?」
「ね、もう行こ」
2人は駆け足で私の席から去っていく
なんなのあの感じは
自分から聞いておいて
もっと何か言うことあるでしょ
まあいいや
ふっ…どうだ
見たか。見てないと思うけど
私にかかれば彼女役の一つや二つ屁でもないわよ
この時の私は知る由もなかった
この1分にも及ばない二言三言の会話が、邪悪な連鎖の引き金になっていたことを
知る由も、なかった