偽恋人の恋愛事情
さっきのせいで、少し怖い
でも
楓くんだ
ちょっとずつ落ち着いてきた私の震えがおさまる
楓くんは…大丈夫
だって楓くんだから
「…落ち着くまで、1人でいる?」
!
「いや!行かないで」
思わず口走る
そんな私を見て楓くんが目を丸くする
「俺のこと怖くない?」
…
「楓くんを怖いと思ったことなんてないです」
ただ、動転していただけ
「ちょっと…びっくりしただけです」
「そっち、行ってもいい?」
…
「はい」
楓くんがゆっくり近づく
「佐賀は帰ったよ」
「うん」
「夏休みだからしばらくは会わないし」
「うん」
「あいつも頭冷やすと思う」
「うん」
「怖がらせてごめんね」
「…楓くんのせいじゃない」
「でも…もっとうまく守ることもできたはずだ」
私の真正面に立つ楓くん
私に触れようとした手を止めてぎゅっと拳を握った
…
「っ!」
私はその手に自分の手を重ねた
「ありがとう、楓くん」
「……うん」
触れたところから
嘘みたいに、さっきの恐怖が消えていく
「楓くんのそばにいると、安心するよ」
「……本当?」
「うん、本当」
少し、笑って見せた
「…雪音、ごめん、ちょっと許して」
「え?」
ふわりと
身体が暖かいものに包まれた
楓くんが、私を抱きしめた
…そうか
この人も、怖かったんだ
急に無機質に恐ろしく豹変した佐賀くんを前に、戦ってくれたのだから
偽恋人…
そんな言葉が脳内をチラつくけど
今だけは目を瞑って
彼の背中に手を回した