偽恋人の恋愛事情



でも、傷つけたりはしたくない…だから


コンコン


と優しく扉を叩く


「雪音、俺」


少ししてゆっくり鍵が開いた

でも扉は開かなかった


そっと扉を開けると、小刻みに震えながら俺を凝視する雪音がいた


怖がってる

でも、今の俺にはあんたが必要だ

頼むから拒絶しないでくれ



「…もう大丈夫だよ。佐賀は帰った」


扉を開いて、一歩だけ中に入る

慎重に行こう


今の彼女はまるでガラス細工だ

とても綺麗だけど、驚くほど儚く脆い


「…雪音?」

俺の声にビクッと肩が揺れる


…怖いのか?

俺のことも?


「…雪音、怖かった?」

少し手を広げて自分は安全だと伝える

雪音は小さく頷く


ああ頼むよ

「俺は大丈夫、何もしない。信じて」

雪音を傷つけることは誓ってしないから


「俺たちは偽物の恋人だ」

こういう時だけそんな言葉を使う俺はずるいだろうか


「だから大丈夫だ」

だから受け入れて


お願い


「うん…」


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