偽恋人の恋愛事情


…でも、雪音が怖いなら

雪音が望むなら


「…落ち着くまで、1人でいる?」

本心とは真反対の言葉をかける

でも


「いや!行かないで」



雪音の敬語じゃない言葉

雪音の本心


「俺のこと怖くない?」

今の俺に雪音が必要なように
雪音にも俺が必要?


「楓くんを怖いと思ったことなんてないです」



「ちょっと…びっくりしただけです」


少し下から見上げるように俺を見る

胸が締め付けられる

我慢ができない


「そっち、行ってもいい?」

この距離は、俺にとっては果てしてなく遠い

「はい」


…受け入れてくれた


割れ目が入って、なおも一層光を屈折させて輝くガラス細工は

近づく俺を拒絶しなかった


でも、やっぱり触れれば粉々になりそうで

雪音に触れようとした手を堪えて拳に変える


「!」

その時

震える俺の手に、冷たく小さな彼女の手が重なった


「ありがとう、楓くん」


やばい

好きだと自覚してしまったから

触れたところから

嘘みたいに、苦しくなっていく

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