偽恋人の恋愛事情
「…少しわかる気がします」
「え?」
私も似たようなものだ
必死で品行方正を取り繕ってるのだってそうだ
「生徒会長の名に恥じぬよう、真面目な人間に添えるよう、別にそう言われてるわけじゃないけど無意識に寄せてるんだと思うんですよね。私自身」
「…」
「嫌でも周りからの期待というものは感じるし、それに応えなきゃいけないと思うのは人間の性ですから。たまに疲れますよ」
「へぇ…あんたでも」
隣を歩く彼の歩度が落ちる
だから私も思わず落とす
…弱音を吐いてしまった
らしくないのに
「はい、私でも。だから逃げたくなる気持ちはわかります。この逃げ方はどうかと思いますけど」
「はは、ごめんなさいね」
「でも逃げることは悪いことじゃないと思ってるので。それに私は元からあなたになんの期待もしてないので最適な逃げ口だったかもしれませんね」
「それは…うん、そうだね」
「仕方ないので逃げ口くらいにならなってあげます」
隣からくすりと息の漏れる音が聞こえた
「ありがと」
鈴本楓について、私が知っているのは
初対面の人間に彼女の役を頼むほど気の使えない、ちょっと嫌なやつ…というだけだったが
ほんの少し、自分に似た波動のようなものを感じた
そんな、偽装カップル1日目の放課後