偽恋人の恋愛事情
運転席にいるのは
もちろん持ち主の父親
え、あのスリップお父さんがやったの?
硬直する私たちの前に、よろめきかけながらも父親が降りてくる
「おや!誰かと思えば城木くんではないか!久々だな!」
「…ご無沙汰しております」
えげつない登場の割には、いつも通り無表情の落ち着いた父親
私を見て、少し目を開き、ホッと息を吐く
…な、なんで来たの?
何しに来たの?
「なんだ?もう家族ぐるみで話したいのかい?気が早いなぁ!結婚式の話でも進めるか!」
うわー
春正さんの言った通りだ…瞬きする間に結婚させられる
「…いえ、話があるのは私ではありません」
…え?
どういうこと?
父親は体を開いて、車の方を見た
パタっと後ろの扉が開く
そこから現れたのは、黒いスーツを着た背の高い…人、物
…え?
王子様かと見間違うほど、スーツを着こなし、長い足で華麗に歩いてくる
そして…棒立ちする私の手を引いた
「……なん、で」
「はじめまして。鈴本楓です。
雪音さんを返してもらいたく、参りました」