偽恋人の恋愛事情



「…9年前に妻を亡くして、人間はいつ死んでもおかしくないと思ったんだ」

…え?

唐突にそんな話を始めたお父さん


「いつ私も死ぬかわからない。もし私がいなくなったとしても晃や雪音が確実な将来を歩めるよう、苦労しないよう、成績や評価に厳しくしてきた」

…成績

雪音が言っていたことか


「だが…私は間違えていた。君が言った通り、雪音にわがままを言うことや、自分の本心に従うことを教えなければならないのに…そんな当然のこと親が一番に教えるべきなのに…180度やり方を間違えていた」




「もっと雪音と話すべきだった。いつしか自分でも何を教えるべきかわからなくなって、ただ明確な数字にこだわってしまった」


…それさ

「その言葉、雪音に言ってあげてください。話すべきだったなんて過去形にしないで。これからまだまだその機会はあるんですから」

雪音が一番、聴きたい言葉だと思います


「…その通りだな。ありがとう。鈴本くん」


雪音が家に帰ってしまうのは、俺にとっては本望ではないけど


でも、雪音が自分の家を好きになれるんだったら

それ以上に素晴らしいことなんてない


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