偽恋人の恋愛事情
「…何を馬鹿げたことを」
低い声を発する壇さん
明らかに雰囲気が変わる
楓くんが私の手を強く握る
「雪音、俺の後ろから出ないで」
「う、うん」
「君は…誰に向かって喧嘩を売っているかわかっているのかい?」
ひぃ…
「父さん!」
「春正は黙っていなさい」
…春正さん
困ったように私とお父さんを交互に見ている
「雪音さんは春正の婚約者だ」
違うわよ
「今私がそう決めた」
ふざけるな
「他の人間に渡すわけにはいかない。そもそも君のような一般人が茶々を入れるな。これ以上私を怒らせるようならタダでは済まないぞ」
…こ、怖い
楓くん…
助けを求めておいていうのも何だけど
私はあなたに傷付いてほしくはないの
だから…無茶はやめて
そう言いたいのに
足がすくんで声も出ない
「婚約者?ふざけないでください。それはあなたではなく雪音が決めることだ。本人の意思も周りの意見も聞き入れないようなあなたが、身勝手に自分の願望を叶える権限などない」
楓くん…!
「それにそんな横暴な人間のもとに、好きな人をのこのこ渡すような馬鹿な真似、俺は絶対にしない!あんたが何を言おうが、俺に何をしようが、雪音は渡さない!」
……