偽恋人の恋愛事情


「鈴本くん…あの、走ってきてくれたんですか」

「当たり前だろ」



「…ありがとう。ごめんね」


あんまり意味ないけど、雨に濡れた袖で鈴本くんの額から伝う、目に入りそうになっていた水を拭った

「…あ」

安易に触れてしまったことに気づき、慌ててその手を離そうとした


しかし

パシッと遠のきかけていた私の腕を鈴本くんが掴む


「冷えてる」

え?

「ずっと雨に打たれてたの?」



「そう…だったかも」

そういえば、そうか


そんな私の曖昧な反応を見てか、鈴本くんが私の腕をそっと離す

「…大丈夫?」

だいじょう…


あ、やば


傘の中にいるのに

水が垂れる

髪から垂れた水ではない

目から溢れる水だ


追い詰められている時に、人に優しくされると

涙が出るらしい…

そんなこと初めて知った



というか…


ものすごく
久しぶりに…


泣いた


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