偽恋人の恋愛事情


「…ゆき…」



「あ、はは、すみません、雨が目に直撃…したっらしくって」


あれ、上手に息が吸えなくなってきた

ここは息苦しくないはずなのに

ひっくひっくと変な嗚咽が喉を行ったり来たりする


安心したのだろうか

急に、さっきまでそんな気配すらしなかったのに
涙が溢れてくる


確かに助けてほしいとは言ったが…

こんなボロボロになっているところを見せるなんて


「あっ…えっ、う…あっ」

上手く喋れない

「ちょっ…とっ…まって…う」


えぇ
泣くとこんなんになるの?

こんな息が吸えないの?
こんな苦しいの?

泣いているところを、弱っているところを見られると
こんなに消えてしまいたくなるの?


思わず後退りして再び雨の中に出る

雨で涙を隠そうと

傘から出て顔を濡らす


「雪音」

でも、すぐに雨が当たらなくなる

私よりも長い手で傘を持っているのだから当たり前だ


鈴本くんが私を傘に入れる

それでも私がそれを拒むように外に出ようとするので

「こら、入れ」

ついに腕を掴まれてしまう

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