偽恋人の恋愛事情
あの人が求めているのは私が出す数字だけ
そこに情なんてない
微塵もない
「…私が好きなものも、好きなことも、何にも知らないんです。興味があるのは成績だけです」
参ったというように笑って見せれば
楓くんは苦しそうに唇を噛み、そっと私の顔から手を離す
「…毎日、そんな家に帰ってたんだ」
「慣れましたけどね」
でも
いくら慣れたとは言っても
「でも、楓くんをバカにしたことだけは許せなかったんです。それでタガが外れちゃって」
自分でもあんなに簡単に外れるとは思わなかった
でも無性にイラついたのだ
だって私はあんなクソジジイよりも楓くんの方が好きだから
大嫌いな人間にバカにされたらそりゃ…ねぇ。
「…そっか。でも俺が手を繋いで帰ろうなんて言い出したから…」
!
「それは違います!」
思ったより大きい声が出た
楓くんが目を丸くする
「むしろ…感謝してるくらいです。だってあの大嫌いな父親に、こうやって本音をぶちまけるチャンスをくれたんですから」
こんな機会がなければ
「きっと私は一生父親のロボットのままでした。ありがとう、楓くん」
心から思ってるんだと、伝わるように
自分を責めないように
なるだけ優しく笑って見せた