偽恋人の恋愛事情
「真正面から転けたんですね」
「あー…はい」
「よくあるんですか?」
いやまさか
「普段は受け身くらい取れます」
「え?」
…
「普通に…転けてたら」
つい、見栄を張ってそんなことを言う
きっと今の俺の顔は酷いもんだと思う
苛立ちと恐怖と痛みと…色々混じったぐちゃぐちゃの顔
「…誰かにやられました?」
…え
「…」
「そうですか」
なんでわかったんだ
いや俺の顔と態度でわかるか
無言なんて肯定と同じだ
「情けないっすよね」
名前も知らない初めて会った人に、こんなこと言うなんて馬鹿げてる
それはわかってる
でも…
弱っていたせいだ
精神的にも肉体的にも疲れていたから、全く知らないこの綺麗な人に溢れるように愚痴を吐く
「高校生にもなって、納得いかないからって嫌がらせする馬鹿な人間っているんすね」
でも何が一番情けないって
「それに怖気付いて、真正面から意見もできない俺が一番ダサいけど…」
こんなこと話したって無意味だ
彼女は俺の顔なんて一切見ず、ただテキパキと擦りむいた足の手当てをしている
同情も優しさも何もないそんな表情で
でも今は…そうしてくれてよかった
きっとここで慰められたって俺はイラつくだけだ
それがわかっているかのように、俺との間に確かに一線を引いている