ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません



応接室のソファーには、もうお父様が腰掛けていた。
お医者様を呼んだところらしいが、私はお父様の前にかがみこんで様子を聞いてみる。

「お父様、痛いのはどの辺りですか?」

「足首のあたりかな」

「失礼しますね」

ブーツを脱がせると、お父様の右足首は赤くなって腫れつつある。

「冷や汗がでたり、気分が悪くなったりしていませんか? 」

「それは大丈夫」
「おそらく捻挫でしょうね」

私は侍女に冷たい水と布を何枚か持ってこさせる。

「とにかく、冷やしましょう」

布を水で冷やして患部にあてて、また冷やした布に変えるという地味な作業を続ける。
最初はポカンとしていた侍女が、途中から変わってくれた。

「フランソワーズ、君はケガの手当てができるのか?」

ジャンヌ様を連れて、あとから応接に入ってきたジョゼフ様から声がかかった。

(あ、いけない! つい息子がサッカーでケガした時みたいに……)

お父様まで痛みを忘れたようで、私の答えを聞きたそうにしている。

「お、お妃教育で習ったような、本で読んだような……痛めた個所を冷やすといいそうです」

なんとかその場を取り繕った。
お父様は納得したのか、素足を見せている状態に恐縮しているようだ。

「伯爵、お見苦しところを見せてしまったね」

「いえ、さすがフランソワーズ様だと感心しておりました」

セバスチャンが侍女たちに促すと、テーブルにはお茶菓子と香り高い紅茶が用意された。

「ジャンヌ様、馬車の移動でお疲れでございましょう。どうぞ召し上がれ」

今日は私のお気に入りのクリームを挟んだクッキーや砕いたチョコレートを入れたクッキーなど何種類かお皿に盛っている。

どれも十代の令嬢には喜ばれると思う。
つい日本で食べていたお菓子が恋しくて、私は試行錯誤を繰り返している最中なのだ。

「いらないわ」

自信があったけど、あっさりジャンヌ様に拒否されてしまった。

「残念ね。このチョコレート入りのクッキーなんて、ものすごく美味しいと思うけど」

「けっこうです! お菓子はいりません!」
「ジャンヌ。その言い方はよくないよ」

ジョゼフ様が注意すると、ジャンヌ様は俯いてしまった。
この父娘、意思の疎通がうまくいってないみたいだ。

(中二病かあ……)

郁子の息子と娘もこれくらいの時は難しかったなあと、ひとりで納得してしまった。

お父様が雰囲気を変えようと、話題を私に振ってきた。

「ところでフラン、なんで屋敷にいるのかな?」

第三者がいる席こそチャンスとばかりに、私は王太子妃候補の教育を辞退すると話すことにした。

「私、領地に引きこもることにしましたの」

お父様ったら、お茶を拭きこぼしそうになってしまったわ。
いつもクールなジョゼフ様が、目を丸くしていらっしゃる。カワイイ。

そしてジャンヌ様は無関心を装っているけれど、話の続きが気になるのかワクワクと瞳を輝かせている。







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