ごめんあそばせ王子様、 離婚経験者の私に怖いものなどございません
「お父様から王宮に伝えてくださいませ」
「り、理由は⁉」
「なんとでも作ってくださって結構ですわ。体調不良とでも、出来が悪くてついていけないとでも」
私があっさりと『王太子妃候補』を投げ出そうとするものだから、皆が信じられないといった顔になる。
「フ、フラン……」
「もう決めましたの。よろしくね、お父様」
お父様は真っ青になってしまわれたけど、私だって自分の人生をこのまま犠牲にしたくない。
タイミングよくお医者様がおみえになったから、私はこの場から離れることにした。
「ジャンヌ様、よかったらお庭をご案内いたしますわ」
「そうだね、ジャンヌ。行っておいで」
「は、はい」
ジョゼフ様のすすめにおずおずと立ち上がるジャンヌ様は、さっきの刺々しい雰囲気は消え去ってとても愛らしい。
素直なところもあるんだなと、私は思わずニッコリと笑いかけてしまった。
「さ、参りましょう」
***
わが家の庭は、お母様が花木を集める趣味があるから珍しいものが多い。
北側には少し背の高い木を植えてわざわざ日陰を作っている。
森の中でしか育たない草花まで、お母様は愛好しているのだ。
花を愛でるくらいなら子どもを可愛がってくれと思った時期もあったけど、趣味に打ち込んで日常の憂さ晴らしをしているのかもしれないと、近頃はやや同情している。
ジャンヌ様を案内したのは南側の日当たりのいい庭だ。
こちらにはバラやマグノリアなどが咲き乱れている。
「きれい……」
ジャンヌ様も色とりどりの花に見とれている。やっぱり女の子だ。
「ジャンヌ様、さっきお菓子を嫌っているようにお見受けしたのだけど、よかったら理由をお聞きしてもいい?」
「フランソワーズ様」
少し言い難いのか、ジャンヌ様は口ごもってしまった。
「あの、私、太っているから甘いものは食べたくないの」
「はあ⁉」
私はのけぞりそうになった。
この薄い金髪でクリっとした目の愛らし子のどこが『太ってる』というのか。
「誰がそんな……」
そう言いかけて、なんとなく察してしまった。
確かにジャンヌ様は丸顔だ。背も低い方だろうから全体のイメージが丸まっちい。
「お茶会でなにか言われたの?」
当たりだったらしい。すぐにわかるくらい、ジャンヌ様が狼狽えた。
「あの、あの、私」
「どなたのお茶会かしら?」
ドスの効いた声になってしまった。いけないいけない。
この気の小さなお嬢様を怯えさせては、聞きたいことも聞けないだろう。
四阿にハーブティーを用意させて、私はジャンヌ様と向き合った。